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横浜地方裁判所 昭和62年(ワ)1601号 判決 1987年11月27日

原告 桜井登志夫

右訴訟代理人弁護士 佐藤卓也

被告 横浜長者町公衆電話会

右代表者会長 平山正晴

右訴訟代理人弁護士 江藤馨

主文

原告が被告の会員であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五四年七月、被告に入会した。

2  被告は、昭和三二年公衆電話の受託業務の円滑なる運営と公衆に対するサービスの向上を図り、かつ、会員相互の親睦の増進を目的として、横浜市中区、南区、西区内に居住し又は店舗を有している公衆電話の受託者を会員として設立され、決議機関として総会を、執行機関として会長一名、副会長二名、理事若干名を設け、会長等の役員は総会の議決又は承認により選出し、会長が被告を代表する旨の会則を有する権利能力なき社団である。

3  被告の会員は、その地位にあることにより、次の利益を有するものである。

(一) 会員は、議決権を行使し、会の運営に参画して、会の目的事業たる公衆電話受託業務の円滑な運営並びに会員相互の融和、親睦に浴することができる。

(二) 会員は、権利能力なき社団である被告の財産について、これを総有することによる利益を有するところ、昭和六一年六月八日当時、被告は預金債権等総額約三五〇〇万円の財産を有していたのである。

4  被告の前会長である訴外松信隆也は、昭和六一年六月八日、被告の昭和六一年度定時総会において、訴外田尻栄太郎が全会一致で会長に選出されたことにより、会長の職を退いたにもかかわらず、右選出後も会長であると称して、同年八月二七日、原告他八名の会員が右総会を有効と主張し会務を混乱させたとの理由で被告への入会を取り消す旨の通告をした。

そして、被告は、右を根拠に原告の会員としての地位を否定し、原告の会員としての資格を認めようとしないのである。

よって、原告は被告に対し、被告の会員であることの確認を求める。

二  本案前の答弁

原告の本件訴えは、確認の利益がない。

すなわち、被告は、会員相互の親睦を目的とする団体であり、会員としての権利、義務というものも明確ではなく、訴訟をもって確認を求める利益はない。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

なお、原告は昭和六一年八月二七日以前に被告の会員であった。

2  同2の事実は認める。

3  同3(二)の事実中、被告が昭和六一年六月八日当時預金債権を有していたことは認め、その金額は知らない。

4  同4の事実中、訴外田尻栄太郎が会長に選出されたことは否認し、その余は認める。

四  被告の主張

原告は、被告の主導権確保を目的として、昭和六一年六月八日、定時総会において、違法な決議により訴外田尻栄太郎を会長に選出し、右総会を流会せしめた張本人であり、そのため、被告は臨時総会を開催する等多大な損害を被り、さらに、被告の秩序が乱れ、会員相互の親睦が害されたのである。

そこで、被告の会長である訴外松信隆也は、昭和六一年八月二七日、原告の被告への入会を取り消し、昭和六一年九月二三日開催の臨時総会において、右入会取消の意思表示を追認した。

なお、被告の会則には、原告の入会を取り消す規定はないが、民法及び被告の会則によれば、会則にない事項は、最高意思決定機関である総会が決議できるのであり、右入会取消は、臨時総会において追認しているから、その決定は尊重されるべきである。

五  被告の主張に対する認否

被告の主張の事実中、訴外松信隆也が原告に対し、昭和六一年八月二七日、被告の会長として被告への入会取消を通告したことは認め、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  被告は、本件訴えに確認の利益がない旨主張するので、この点について判断する。

被告が権利能力なき社団であること(請求原因2の事実)は当事者間に争いがないから、被告の資産は会員の総有に属すると解されるところ、《証拠省略》によれば、被告の収入は、会員の入会金一〇〇〇円(一人当たり)及び公衆電話一台につき年額四〇〇〇円(二台目から二〇〇〇円)の会費以外にはなく、被告は昭和六一年三月三一日当時約三五〇〇万円の現金、預金等を有していたことが認められ、被告の右資産は会員の入会金及び会費により形成され、会員はその資産を総有しているというべきである。

そして、《証拠省略》によれば、被告は、会則にその目的として、「日本電信電話公社と緊密な連けいを保ち、財団法人日本公衆電話会に協力し、公衆電話受託業務の円滑なる運営と公衆に対するサービスの向上を図りあわせて会員相互の融和親睦を増進することを目的とする。」と定め、その事業として、(1)利用者の意見要望等をとりまとめて、所属営業所長等に進言すること、(2)公衆に対するサービスの普及に関して、関係機関に協力すること、(3)会員相互の連絡により、公衆に対するサービスの改善を図ること、(4)公衆電話受託業務の円滑化と、公衆電話の利用増進を図ること、(5)会員の福利増進を図ること、(6)その他この会の目的達成のために必要な事業を行うものとし、右事業を遂行する意思決定機関として総会を設け、会員が議決権を有する旨定めていることが認められる。

そうすると、会員は、その総有する資産を右列挙した事業に使用し、右目的を達成するように被告を運営する法的な権利義務(総会における議決権等)を有するものであって、被告主張のような単なる親睦団体で、会員が具体的な権利義務を有しないものとは解し得ないのである。

そして、被告が、原告の入会を取り消したと主張して、原告の会員たる地位を争っていること(請求原因4の事実)は当事者間に争いがないから、原告には、被告の会員たる地位の確認を求める利益がある。

したがって、被告の本案前の主張は失当である。

二  原告が昭和六一年八月二七日以前に被告の会員であったことは当事者間に争いがない。

被告は、原告が昭和六一年六月八日開催の定時総会を流会にし、被告に多大な損害を与えるとともに、被告の秩序を乱し会員相互の親睦を害したとの理由で、会長が原告の入会を取り消し、昭和六一年九月二三日開催の臨時総会において、会長の右入会取消を追認した旨主張する。

しかし、原告の入会手続又は入会資格等に法的な瑕疵或いは欠缺があったことの主張、立証はなく、また、被告が、原告の入会後の事情をもって、原告の入会を取り消しうる法的根拠を見出すことはできず、右主張は主張自体失当である。

なお、被告は、総会が民法及び被告の会則において、最高意思決定機関と規定されているのであるから、総会が原告の入会の取り消しを追認した以上、有効である旨主張するが、しかし、民法が最高意思決定機関である総会の権限を大幅に認めているのは、私的団体の内部秩序に関する事項に関して、私的自治を認め公序良俗に反しない限り社団構成員の意向に従って運営させることが相当であるからであって、その限度で総会の権限が認められるものであるところ、入会後の事情をもって団体構成員の入会を取り消すなどという現行法上全く根拠のないことまで総会に認めた趣旨と解する余地はなく、仮に被告の主張が事実であるとしても、公序に反するものとして総会の追認を有効とすることはできず、被告の右主張は失当であり、さらに、被告の総会が原告の入会取消を追認する決議をしたと認める証拠はなく、むしろ、《証拠省略》によれば、昭和六一年九月二三日開催の被告の臨時総会において、訴外両角副会長が「総会のときルールに反したやり方をした人を社会通念上から処分した。」旨報告しているに過ぎないことが認められ、被告の主張はその事実さえ認め得ないのであって、その点からしても理由がない。

もっとも、訴外松信隆也は、被告の会則に会員の除名規定がないためこれに代わる手段として、被告の会長名で原告の入会を取り消したものと解する余地があり、被告の会則に除名規定がないとしても、《証拠省略》によれば、被告の会則は、会則の改正を総会の議決事項としていることが認められるのであるから、会則を改正するまでもなく、総会が原告の除名を決議することは可能であると考えられないではないが、しかし、被告の会員である原告の地位を喪失させるのであれば、総会において、原告の除名を正式の議題として取り上げ、原告の具体的行為、それが被告及び被告の会員の利益を損なうこと、その行為が除名という構成員にとって最も過酷な処分にあたる程のものであること等を説明し、原告の弁明を聞き又はその機会を与えたうえで他の会員の討議に付し、そのうえで議決するという適正な手続を行うべきであるところ、被告が、原告の入会取消について、右手続を経由したと認める証拠はなく、前記のとおり、単に副会長が総会で報告したに過ぎないのであって、原告の入会取消が除名と同旨のものであるとしても、その手続は公序に合致したものとは到底いえず、原告の会員としての地位を喪失させうるものとは解しえない。

その他、原告の会員としての地位を喪失させるに足る事由はない。

したがって、原告が被告の会員たる地位を喪失したと認めることはできない。

三  よって、原告は被告の会員の地位にあり、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西田育代司)

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